ナウは創作モンスター

aka ヒサシ。自分が書いたマンガや文房具の話。

Blu-rayエヴァQのOPに「巨神兵東京に現わる」が付いている理由(ネタバレあり)

このエントリーは、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のネタバレ全開です。

もしかしたら、

  • エヴァTVシリーズ全話
  • 旧劇場版 映画2作
  • 新劇場版 「序・破・Q」

を全部見てないと、このエントリーは楽しめないかもしれません。

最近エヴァQをBlu-rayで再見した際にいくつか思ったことがあったので↓

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↑この2人が何者なのか、説明はコチラ

 

なぜ、短編「巨神兵~」がBlu-rayのOPで強制再生されるのか

 Blu-ray版「エヴァQ」には特典として劇場で同時上映された「巨神兵東京に現わる」が収録されています。「巨神兵」は、メニューの特典内に入っているのではなく、「エヴァQ」本編の冒頭で必ず再生されるようになっています(ディスクを入れて「本編再生」をすると、必ず「巨神兵」から流れるようになっている)

 こういった仕様が、なぜBlu-rayで採用されたのかは「エヴァQ」のオープニングを見れば分かります。

まず、最初のカットを見てみよう

スクショをそのままあげるとアレなんで私の手書きでスマンネ

エヴァQ」ファーストカット

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↑画面中央にエヴァ改2号機。周りが真っ暗なのは地球の衛星軌道上だから。

視覚的情報をほとんど観客に与えずに、ナレーション(声だけ)で専門用語のシャワーを浴びせるシーンからはじまる演出は今までの劇場版エヴァでたびたび採用されてきた。

 

シト新生」のOP 

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南極基地の監視カメラを見ながら、セカンドインパクトが起きるのを待っている碇ゲンドウキール・ローレンツ

ここでも、何が写っているのかハッキリわからない映像に専門用語の羅列手法が。

 

エヴァ破」のOP

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 北極基地でエヴァ5号機に乗っているマリ(ほぼまっくらからのフェードインスタート)ここでもオペレーターの専門用語の乱用から始まる。しかも英語で。(日本語字幕が付くことで返って観客は固有名詞を理解しやすくなっている)

で、

「Q」の冒頭に話を戻すが、これは今までの劇場版のファーストカットの中でも一番難解である。私はこのOPで多用される「ジェットソン」という言葉はこの「エヴァQ」で初めて知った。初見時はとにかく頭の中が「ジェットソンって何だ?」で一杯になってしまったのを思い出す。

※「ジェットソン」=宇宙工学用語で「不要になった部位を切り離す」的な意味らしい

※英語の用法でいったら「ジェットソン」が正しいのだろうが、過去エピソードで使われていた「パージ」を使っても(たとえ誤用であったとしても)いいんじゃないかと思う……

観客の没入感や感情移入をジェットソン!

 というわけで、「エヴァQ」の最初のカットが歴代の劇場版でも採用されてきた「いつもの演出」であることと、暗い画面と専門用語でとても難解である、ということを確認したところで次に……

映画序盤・主人公が目を覚ますあたりのシーン構成とカットシークエンスを見てみよう

エヴァ2号機が衛星軌道上で封印されていた初号機を奪還した後、急造の封印&シンクロテスト用の装置内で意識を取り戻す碇シンジ

エヴァQ」c103 ※カットナンバーはディスク特典のアフレコ台本より

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主人公が目を覚ましてから、この作品のカットシークエンスは急加速する。

  1.  2号機が初号機とともに地球に降りる
  2. ヴンダーに回収される2号機
  3. シンジが初号機から救出される
  4. シンジが意識を取り戻す(c103)
  5. 医官鈴原サクラに付きそわれシンジ、艦橋へ行く

上記1~5までの間に劇中でどれだけの日数が経過したのか、ハッキリわかるようような情報は一切提示されない。これは劇中のシンジと同じように劇場の観客にも「わけがわからない=ストレス」を追体験してもらうための脚本&演出であるが、ここらへんのシークエンスはもっともたついていいはずだ。とにかくワンカット、ワンシーンの長さが短くて速すぎる。加虐的といっていいほどの演出上の意思決定がここにはある。

ここで発生する観客のストレスを軽減しつつ、スムーズに映画に没頭してもらう方向へ寄せる演出&脚本をこの私、ゆるやかナウが勝手にいくつか考えてみたのでここに書いてみる。(もちろん、「こっちの方がいい」とか「こうするべきだ」というつもりじゃないからね)

 例えば…

上記プロット4と5の間(シンジが目を覚ました後に)追加でヴンダー内の2号機ケージのシーンを入れるというのはどうだろうか。

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オペレーターの声「エヴァ改2号機、装甲の修復および換装作業は明日の〇八時終了予定です」

 衛星軌道上で損傷した機体の修復作業の進捗状況を観客に見せることで、

「ああ、地球上にもどってきてある程度の日数が経ったんだな」

と、観客が頭のなかで自然に物語を組み立ててくれる

他にも…

c103で描かれた、シンジが納められている棺とその周りにある色んな装置(封印&シンクロテスト用装置)。

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その冷却装置的なものに霜が積もっているのをクローズアップで写したカットを一瞬入れるだけでも観客は…

「ああ、ある程度の時間、シンジは眠ったままだったんだな」

と、勝手に経過時間を想像してくれる

 

これらの

ゆるやかナウが勝手に考えて、提示してきた2つの追加シーンや追加カットは、すべて「観客に劇中の経過時間を明示(暗示)する」というものである。

これだけで、観客が受ける「映像を理解しなきゃ」というプレッシャーやストレスはだいぶ軽減される。

「 演出やシナリオとは、観客のストレスマネジメントに他ならない」

by ゆるやかナウ

 ※名言を思いついた時のカットインアニメ↓

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エヴァにおいては、この「経過時間(日数)をわざとあいまいにする」という演出技法やストーリーテリング手法がよく採用される。

※TVシリーズ第24話「最後のシ者」では、①渚カヲル第3新東京市にやってきて②シンジと出会い③セントラルドグマで殺される、①~③がいったい何日間での出来事なのか、映像やシナリオからははっきり読み取ることができない様になっている。

そもそも

映画における劇中経過時間(日数)の処理は序盤においてはゆっくり観客に提示していくのが定石とされている。

1997年のハリウッド映画「スターシップ・トゥルーパーズ」を例にして説明すると…、

スターシップ・トゥルーパーズ [Blu-ray]

  この作品に出てくる敵対エイリアン「バグ」はとても硬い外殻と高い生命力を持っていて、銃火器で簡単に殺すことができない。

①脚をすべて破壊しても死なず、胴体も完全に破壊して初めて息の根を止められることを観客に提示→②物語終盤では、あれほど殺すのに手間のかかった「バグ」たちが、バッタバッタとすぐに死んでいく。

物語が盛り上がってきて、主人公の小隊が敵の大軍を突破する際、エイリアン一匹一匹を簡単に殲滅して脱出していくシーンを目の当たりにしても、観客はいちいち我に返り「エイリアン弱くなってね?」とは思わない。なぜなら彼らは既にクライマックスまで見てきたシーン構成や演出によって映画(物語)の魔法にかかっているからだ。

序盤はエイリアンをゆっくり殺し、終盤は瞬殺していくというエンタメのセオリーからもわかるように、映画がはじまってしばらくは、主人公とその境遇をゆっくり丁寧に描いていった方が「良い」に決まっている。

14年ぶりに目を覚まして訳が分からなくなっているシンジと観客に、世界の変容を色んな語り口で丁寧に見せていく、これこそがこの「エヴァQ」がもっていてもいいはずの「一番おいしいところ」なのに、それをほぼ完全に(キレイに)切り捨ててしまう。これが「エヴァ」というIPがもっている残酷さと小気味良さそのものである。

 ※「序・破・Q」といったような、複数のパッケージがあるからこそ表現できる「時間の飛躍」や「意識の断絶」を体現できるタイトルは本当に「贅沢」であって、消費者に提供しうる最高の「娯楽体験」である。似たような構造を持つエヴァ以外のIPに(最近だと)「ファイアーエムブレムif」がある。

ファイアーエムブレムif (「白夜王国」か「暗夜王国」どちらかのストーリーを選択可能) [オンラインコード]

 これは、「白夜王国」と「暗夜王国」が1つずつ別のパッケージになっており「ファイアーエムブレムif」をプレイしたい消費者はどちらか1つを選ばなくてはならないようになっている。しかも、この2つは単なるカラーバリエーションの違いなのではなく、「ゲームの主人公がストーリーのなかで祖国を裏切る(=白夜王国編)のか裏切らない(=暗夜王国編)のか」をあらかじめユーザーが決断しておかなくてはならないのだ。つまり「ゲームを始める前に商品選びの段階ですでにゲームがはじまっている」という、なんとも過激なタイトルになっている。(この作品のコンセプトが発表されたとき、私はまだゲーム自体をプレイすらしてない段階なのに、ものすごく感動して大きなカタルシスを感じたんだ)

さて、

エヴァQ」の最初のカットから主人公が目覚めるあたりまでの構成を一緒に見てきたわけですが…

実際のプロデューサーが「エヴァQ」冒頭10分を初めて映像でつなげて見たときはかなりビックリしたはずです。

P「のっけからエイリアンを瞬殺してどうする!」

P「確かに、エヴァQのQはQuickeningやけれども!」

かくして、Blu-rayエヴァQ本編の再生ボタンを押したら、強制的に「巨神兵~」からスタートする仕様になったわけであります。(観客を映画の魔法にかけるには、ある程度の時間と段取りが必要だからね)

 

時間経過描写をしない意思を表明するシーン

 渚カヲルとシンジがピアノの連弾をするシーンは、この作品全体の語り口(ストーリーテリング)を象徴するものになっている。(Blu-rayのチャプター27)

シンジ「もっといい音を出したいんだけど、どうすればいい?」

カヲル「反復練習さ」

 このカヲルのセリフは観客に相当のプレッシャーとストレスをかける。

 荒廃したネルフ本部内でのシンジの彷徨が、あとどれくらいの尺で続くのか目処がたたなくなるし、このセリフのせいで「やっぱり新劇場版はループものなのでは?」と思考が脱線してしまう観客を生み出してしまう始末。

たとえば、「そんなに時間はかからないさ」とかなら観客の受けるストレスはぐっと減る。ここでのカヲルの「男を恋愛の心理ゲームに引きずり込むのが得意な女の計算高いセリフ」のようなメンドクセー言葉選びこそが、「エヴァQ」全体の本質を完璧に表現している。

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どうせまた、エヴァのエントリーは書くでしょう。

おまけ

セントラルドグマリリスがどんどん縮小していきます!」

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リリス! amiiboサイズまで収縮!」

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Blu-rayディスクのジャケットとamiibo Wii Fit トレーナーのタンクトップの色が一緒だったからちょっと感動したという

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.(初回限定版)(オリジナル・サウンドトラック付き) [Blu-ray]